わたしが担当する語科教育法の授業では、入門段階での中国語発音指導を主なテーマとしている。今年度最初の授業で中国語を速く音読する「速読」の練習をした。この訓練方法は通訳者、翻訳者の長谷川正時氏の著書および妻が参加した日中学院春期集中講座における長谷川先生の速読法を参考にさせてもらった。
授業では、受講生(中国語学科3・4年生)にCCTVで放映された〈岩松看日本〉のナレーション原稿(250字)とそれを録音したテープを渡し、次週までに練習して1分間で読めるよう求めた。CCTVでニュースを読むアナウンサーの速度は1分間に300字前後なので、目標設定はやや緩めにした。
その結果、4名中3名が1回で目標をクリア、3名とも50秒前後でナレーター(速度はやや遅め)とほぼ同じ速度だった。残り1名も2回目で目標を達成した(あんなに緊張しなければ50秒は可能だ)。さすが専門学科3・4年次の学生、という結果に安堵した。また1名は2回目に40秒で読み、1分間300文字の壁を突破できそうだ。
学生が速読する中国語を聞いていて感じたことがある。この速度の中国語はけっして速くないどころか、かなりスムーズで聞きやすい(これは学生も同意見)、速く読もうという意識から声調や個々の発音が乱れるのではと心配したが、そんなことはなかった。きちんとした発音が身に付いてないとこのスピードでは読めないということなのだろうか。専門学科2年生でこの「速読」をやってみたらどうなるか、興味深い。
中国語を速く読むという発想は新鮮だった。教育法では、当然のことながらピンインの仕組みを理解し個々の発音をいかに教えるかということばかり教えてきた。「速く読む」より「正確に読む」が常に優先順位の上である。速く読むことと正確に読むことを対立するものとしてとらえていたのかもしれない。
速く読むのに慣れれば速い中国語に対する恐れがなくなる。この訓練は話す力を鍛えるだけでなく、聞く力を向上させるのにも役立ちそうだ。HSKの〈听力理解〉第三部分攻略のヒントにもなりそうだ。
長谷川正時氏の著書には中級者向けに『中国語短文会話800』(スリーエーネットワーク2004年2,800円)等がある。付属CDのスピードは教科書のCDばかり聞いている学習者には驚きだろう。一日15分、これを練習すれば中国語を速く話す口の筋肉が鍛えられそうだ。