水滸のことば



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活字の落とし穴(ゼミ6/26)

26日のゼミでは排印本の「不手際」について話しました。問題の箇所は、張都監が奥の部屋に武松を招いて接待する場面です。

张都监叫抬上果桌饮酒又进了一两套食次说些闲话问了些枪法……

わたしたちが読んでいる容與堂本の排印本では〈食次〉の間に「。」が打ってあります。ところがこの〈食次〉は一語で、《汉语大词典》に〈①就食之时。②食品。多指酒菜、点心之类。〉とあり、第30回のこの箇所が②の用例として、つぎのような句読で載っています。

张都监叫抬上果桌饮酒,又进了一两套食次,说些闲话,问了些枪法。

一方、『水滸全傳』即ち120回本系統の排印本は、〈又进了一两套。食次说些闲话〉となっていて、〈食次〉を《汉语大词典》①の意味で取り「食事中雑談し」と解釈しているようです。

このように中国の人にとっても(しかも水滸の専門家です!)『水滸傳』を正確に読むのは一苦労なんです。ゼミ生の皆さん、多少の読み間違いは気にしなくてもよいのです。なお、〈食次〉の解釈をめぐっては以前紹介した高島俊男氏の『「水滸伝」語彙辞典稿』にも詳しい説明があります。

いずれにせよ現在ゼミでやっているように『水滸傳』はやはり影印本で読む必要があるようです。句読点があるとかえって邪魔で読みにくいとなれば、いよいよ「ホンモノ」、水滸の文章に慣れてきた証拠です。

また、今回のような句読の「ゆれ」は一人で読んでいるとなかなか気づかないものです。少人数による精読の大切さを改めて感じました。
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by clingmu | 2007-06-27 22:17 | ゼミ連絡

不正行為

先日、カンニングらしき行為を発見した、と言っても正式な試験での不正行為ではない。

カンニングらしき行為は2年生の授業で起きた。速読の課題文中にある〈下令〉の〈令〉を「leng3」と読む学生が数名いた。本人にピンインを確認したところ「leng3」と書いてあり、どうもある学生のピンインを写したらしい。あまりにお粗末だ。複数名の学生が疑うことなく平気で〈令〉を〈冷〉と読んだのはあまりに「寒い」。怒る気もしなくなった。教える方に能力がないばかりか、カンニングする方も人を見極める能力がない。10点の人が20点の答案を見ても意味がない、そろって落第するだけだ。

期末試験まであと1ヶ月、愚かな行為に一日でも早く気づき「自力更生」の道を歩んで欲しい。2年生のテストでそんな方法は通用しないのだから。ただし、今までこのやり方で乗り切ってきたという「成功体験」を払拭するのは難しいのかもしれない。

そこで考えた。学生の不正行為を禁止する以上、みずからの身を正す必要がある。わたしはこれまで成績を提出する際、58点を60点にしたり、20点を「仮進級」ギリギリの40点に書き直すなど多くの「不正行為」をしていた。今後は態度を改め、10点は10点と正直に評価しようと思う。
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by clingmu | 2007-06-25 00:00 | ひとりごと

〈相~〉について(ゼミ6/19)

ゼミでここまで読んできた『水滸傳』第30回には〈相~〉という語がいくつか見られます。〈相帮〉〈相谢〉〈相看〉などの〈相〉には〈互相〉や〈彼此〉の意味がありません。これらの〈相〉は現代語〈相信〉の〈相〉にその痕跡を留めています。

また6/19に読んだ〈武松自从在张都监宅里,相公见爱……〉の〈见爱〉は「わたし(ここでは武松)を好む」の意味です。現代語では〈见怪〉や〈见笑〉といった語彙にその用法が残っています。

このような〈相〉や〈见〉の「指代作用」については吕叔湘氏に〈相字偏指释例〉〈见字之指代作用〉(いずれも《汉语语法论文集》所収)という論文があります。また、水滸の〈相~〉については香坂順一氏の論文があり、こちらの方はゼミで紹介する予定です。
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by clingmu | 2007-06-24 09:28 | ゼミ連絡

ゼミ6/12

今年のゼミでは現代漢語と近代漢語の違いにできるだけこだわって『水滸傳』を精読しています。そのため話の展開がどうしてもゆっくりになってしまい、面白味には欠けるかもしれません。

6/12に読んだところは、武松が陰謀とは知らず張都監の呼び出しに応ずる場面。細かい事にこだわらない武松を〈武松是个一勇之士,终无计较〉と描写している箇所があります。ところがこの箇所、100回本より後に成立した120回本および70回本では〈武松是个刚直的人,不知委曲〉と字句に異同があります。100回本でも問題はないのでしょうが、後の展開を考え伏線としてこのような表現に変更したのでしょうか。

このように120回本や70回本ではたまに字句が異なることがあります。100回本を読んでいて、どうも読みにくいなぁ、と感じたら、120回本や70回本を調べてみましょう。睨んだ通り書き直しを発見すると、なんだ当時の人も読みにくかったんだ、と妙に安心することがあります。120回や70回の活字本なら図書館にいくらでもあります。第30回だけでもコピーして手もとに置いておくとよいでしょう。

さて武松の運命やいかに? それは次回のお話で。
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by clingmu | 2007-06-17 23:51 | ゼミ連絡

1年生テスト中間試験

6/12に1年生の中間試験を行った。今日テストの採点をした。

事前予想の平均点70点をはるかに下回る結果だった。成績は世相を反映してか二極分化の傾向にある。こうなると授業の進め方が難しい。平均点は出るが平均点周辺の学生は少ない。

なにせピンインの綴り方を覚えてくれないのだからお話にならない。英語が苦手で中国語を選択した気持ちは理解できる。でも、ピンインで使うローマ字も受け入れられないのだろうか? 我が大学においてピンインの読み方や綴り方を教え、その後、文法的な理解を積み上げていく教え方は無理なのだろうか? シャドウイングやコミュニカティブアプローチといった教授法の本音は「従来の教え方がやりたくてもできない」といったといったあたりにあるのかもしれない、とふと思った。

来週にはテストを返却する予定だ。1年生が自分の成績をどう受け止めてくれるかが最後に残された望みだ。
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by clingmu | 2007-06-13 23:01 | ひとりごと

「速読」おまけ

先週の木曜日にも再再挑戦の学生が数名、研究室にやってきた。「平常点がなくなるよ。」と脅したのが功を奏し、日頃授業であまり顔を見ない学生もいた。もちろん、それでも来ない学生はいる。

前回も書いたが、声調の不安定さはやはり致命的だ。個々の発音も問題だ。短母音の「e」、ウムラウト、無気音と有気音、駄目押しに「そり舌音」…すべて1年生の1学期で習うことだ。自分の発音に危機感を覚えた学生もいたようだ。たまたま運良く2年生になっただけなのだから、もう一度初心に返って地味な発音練習から始めて欲しい。練習する気があるなら、わたしはいつでも付き合うつもりだ、そのためのOfficeHour(s)でしょ?

さて明日は1年生初めてのテスト。授業中あれだけ楽しそうに隣の人としゃべっているんだから、わたしのテストなんてきっと朝飯前だろう。平均70点前後なら採点も楽だろう。明日のテストが楽しみだ。
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by clingmu | 2007-06-11 18:28 | 教学

「速読」その後part-2

木曜日に「速読」の再テストを行った。その結果を踏まえ「速読」の効用について考えてみたい。

今回速読に挑戦した2年生は全部で59名、1回で合格したのは29名と約半数、残りの30名が今週再テストに臨み、30名中24名が合格した。

再挑戦した学生の読みを聞いていると、今回は音声教材を聞いて練習してきたようだ。1分間200字は2年生にとって充分達成可能なスピードだと感じた。以下、今回の試みで気づいた点を列挙する。

1.声調と語調(イントネーション)……今週合格した学生の多くは先週と比べ声調や語調の面で進歩が見られた。最低でも声調が安定しないと60秒の壁を突破するのが難しい。1箇所声調を間違えると、途端にリズムを失い、声調のミスが連発する現象が見られた。中国語学習400時間の学生にとって声調のミスは自覚できるはずだ、「間違えた」という意識が次のミスを誘発するようだ。ある学生が「声調や個々の発音はめちゃくちゃでもいいですか?」と前置きしてから読み始めた、結果は合格、発音はともかく、声調のミスはほとんどなかった。この結果からも分かるように、初級を学び終えた学生にとって声調を完全に無視して読むことはかえって難しいのだ。一方、語調についてはまだまだ練習不足だ。「,」や「。」以外の微妙な停頓、緩急などに気を配る余裕はないようだ。停頓や緩急にまで気をつけて読んだ学生は文に自然なリズムが生まれ、課題文をほぼ50秒前後で「ゆっくりと」読んでいた。この自然なリズムは初級用教科書付属のCDを聞いて練習しても身に付かないだろう。その意味で「速読」はとても効果的だ。

2.発音……母音や子音、有気音と無気音、そり舌音などの発音を矯正するという面で速読はそれほど効果的ではなかった。もともと発音のよい学生が速読でもきれいな発音で読んでいた。今回の課題文では「guo4qu4」や「ju4da4」のウムラルト、また「sha1che1」や「zhan4zheng1」などに現れるそり舌音や「a」「e」の連続などに学生は苦労したようだ。速く読むことが優先され、なりふり構わぬ普段着の自分が露呈した。このまま練習を続けると現在の発音が定着してしまうのではと心配になった。発音を直すには単語や音節レベルで集中して練習する必要がありそうだ。

3.目標の設定……2年生になると中国語を声に出して読ませる授業が少なくなる。中国人教員による会話の授業は別だが、講読の授業では本文の読みが気になっても止めて直している時間的な余裕がない、いや、止めていたらきりがない。声に出して本文を読むよう勧めても、目標設定がなくただ読むのは辛いだろう。今回200字60秒という明確な目標を設定したことにより学生は確かに読む練習を重ね、音声教材を幾度も聞いたようだ。また、60秒の要求をクリアした学生には達成感もあったと思う。その意味では学生も楽しんで(苦しんで?)練習できたのではないだろうか。

「速読」の効用は、声調の安定、中国語としての自然なリズムの習得といった点で効果的だと現時点では考えている。授業における導入の時期は初級段階を終えて中級に入った頃がよさそうだ、ただしピンインが正確に発音できることが速読導入の前提条件となる。ピンインを読む練習はやはり別にしっかりやる必要がありそうだ。そうすれば1分間200文字→250字→300字と徐々に負荷をかけていくことも可能だろう。

今回の試みによって2年生が中国語を声に出して読む大切さ、そして日頃の練習不足を感じてくれればと思う。学生には中国語を速く読む練習の教材として『入門からのシャドウイング 中国語短文会話360と基本文法』長谷川正時・長谷川曜子共著(星雲社2007年)を紹介した。2年生にとってはやさしいはずの短文ばかりかもしれないが、スピードについていくにはやや下のレベルから始めた方がよいと思う。1日5分でよいから練習して欲しいものだ。
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by clingmu | 2007-06-03 21:02 | 教学


水滸伝の言語に興味を抱く、ある語学教師のぼやき。ときどきゼミ連絡。
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